2013年6月の災害対策基本法改正により、市町村での「避難行動要支援者名簿」の作成が義務付けられました。自治体が保持する個人情報を活用して災害時に特に支援が必要な人を名簿化するもので、災害時の迅速な救助活動につながることが期待されています。この「避難行動要支援者名簿」をマンションの防災活動に活用することはできるのでしょうか? マンションの防災にも詳しい、銀座パートナーズ法律事務所の岡本正弁護士に解説していただきます。

「避難行動要支援者」とは?

 災害対策基本法では、「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」を「要配慮者」と定義しています。「避難行動要支援者」は、要配慮者のうち「災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する者」と定義されています。実際の避難支援の実効性を考慮して、特に支援が必要な人を対象にしています。

「避難行動要支援者名簿」はどのように作成、管理されるのか

 自治体の各部局で保有している高齢者世帯や障害者の情報など、従来は福祉や医療のために収集されている情報を「災害対応」の場面で利用できるようにしたのが、2013年6月改正の災害対策基本法です。それまでは、福祉や医療という目的を超えて個人情報を利用することはできませんでしたが、改正法では避難行動要支援者名簿作成のために内部情報の目的外利用が可能であることを明記しました。
「避難行動要支援者名簿」は、「災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、地域防災計画の定めるところにより、消防機関、都道府県警察、民生委員、市町村社会福祉協議会、自主防災組織その他の避難支援等の実施に関わる関係者(避難支援等関係者)に対し、名簿情報を提供」できるものとされています。ただし、市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、平常時に名簿を提供することについては「本人の同意」が必要です。
一方、自治体は、「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために特に必要があると認めるときは、避難支援等の実施に必要な限度で、避難支援等関係者その他の者に対し、名簿情報を提供することができる」とも定められています。
 つまり、自治体が作成した「避難行動要支援者名簿」を平常時に避難支援等関係者に共有するには本人の同意が必要で、災害発生時で緊急を要するときには本人の同意なく共有することができる、ということです。また、該当する自治体で条例に平常時から共有できるとする定めがある場合や「個人情報保護審議会」という有識者機関で答申を経た場合は、平常時においても本人の同意なくして避難支援等関係者に提供することが可能となります。

自治体が保有する被災者情報の活用事例

 災害対策基本法改正前の東日本大震災発災直後に、自治体が保有する被災者情報が民間の避難支援等関係者に提供され、支援活動に活用された事例を一つご紹介します。
 岩手県障害者保健福祉課は、東日本大震災の発災直後において、避難所の避難者名簿と身体障害者手帳情報を照合して、避難所に避難している視覚障害者のリストを民間支援団体に提供しました。
 障害者手帳情報は通常、障害者福祉事業や行政給付という特定の目的のためだけに自治体が保有する個人情報で、それ以外の目的での利用や第三者提供されることはありません。
 本事例は、岩手県個人情報保護条例が定める個人情報の第三者提供の要件である「個人の生命、身体又は財産を保護するため、緊急かつやむを得ないと認められるとき」を根拠とし、支援活動に活用するため自治体が保有する個人情報を活用したものです。
 行政の担当者が、住み慣れた住居を離れて避難所で生活する視覚障害者の方たちの苦労や不便を鑑みて「緊急性」を認め、いち早く支援団体にリストを提供した好事例です。
 現場の担当者が「緊急性」を認め、本人の同意なく第三者提供を行う判断をすることが難しいこともあって自治体が保有する被災者情報が支援団体に提供された事例は数件にとどまっています。避難支援が必要な方に迅速な支援が行われるよう、災害発生時の名簿提供ルールの浸透が望まれます。
マンションで災害が発生した時の安否確認や避難支援活動は、マンション住民同士での助け合い「共助」で行われるのが理想的です。安否確認や支援活動のためにマンションの防災組織が「避難行動要支援者名簿」を受け取ることができれば、支援を受けたい方がマンション管理組合の名簿から漏れていた場合にも発見することができますし、安否確認もスムーズになると考えられます。

マンションの防災組織が「避難行動要支援者名簿」の提供を受けるには?

 2013年6月改正の災害対策基本法では、国レベルの総合的な防災計画である「防災基本計画」、都道府県及び市町村の「地域防災計画」に加えて、地域コミュニティの共助による防災活動推進を目的とした「地区防災計画制度」が新たに創設されました(2014年4月1日より施行)。本制度は、自治会やマンション管理組合など既存の組織単位で「地区防災計画」を策定することを推奨しています。
(参考)内閣府 地区防災計画ガイドライン(概要)

(参考)都市部をはじめとしたコミュニティの発展に向けて取り組むべき事項について(通知)

マンション管理組合で防災組織を編成し、「自主防災組織」として認定を受けたり、災害対策基本法の「地区防災計画」を自治体へ提案することで、「避難行動要支援者名簿」の提供先として認めてもらうことも十分検討に値すると思われます(ただし、平常時に提供を受けることができるのは、条例の定めがあったり、個人情報保護審査会の答申があったり、あるいは事前に「本人の同意」がある場合となります)。

自治体の条例を確認してみましょう

 「避難行動要支援者名簿」の提供について、条例で定めている自治体もあります。
千葉市では「千葉市避難行動要支援者名簿に関する条例」において、名簿の提供先として「建物の区分所有等に関する法律第3条に規定する区分所有者の団体」つまり、マンション管理組合を明記している点がユニークです。
横浜市の条例では、避難誘導等の支援活動に必要な体制の整備や、地域の自主的な支えあいの取り組みを実施するため、避難行動要支援者の個人情報を「本人の同意なくして」自主防災組織等にあらかじめ提供できることを定めています。
お住まいの地域の自治体の方針を確認し、マンションの防災組織で名簿情報の提供を受けることができる方法を検討するのも一案です。

自治体が保有する「避難行動要支援者名簿」の情報を平常時から管理組合において保有しておくことができれば、確かに災害発生後の安否確認が効率的になります。一方で、自治体が把握する避難行動要支援者以外にも、疾病や登録には至らないものの、安否確認を行うべき居住者がいる場合もあります。マンション管理組合では、きめ細やかな住民ニーズを把握するために、独自の名簿を策定していく努力も怠らないことが重要だと考えられます。

解説:岡本正弁護士
<プロフィール>
銀座パートナーズ法律事務所パートナー弁護士。マンション管理士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、医療経営士、宅地建物取引士、防災士などの資格を有し、防災・危機管理・災害対策などの社員研修・セミナー・コンサルタントも手掛ける。2001年慶應義塾大学法学部法律学科を卒業し、2003年弁護士登録。2009年から2011年に内閣府に上席制作調査員として出向。東日本大震災を契機に「災害復興法学」を創設し、中央大学大学院客員教授、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師等歴任。代表著著に『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会・単著)、『自治体の個人情報保護と共有の実務』(ぎょうせい・共著)、『専門士業と考える 弁護士のためのマンション災害対策Q&A』(第一法規・共著)。
http://www.law-okamoto.jp/


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