熊本地震では大きな余震が続き、車で寝泊まりする被災者が相次ぎました。そして、車中泊の避難者からエコノミークラス症候群による犠牲者が出てしまったことで、車中泊の危険性について多く報道がなされました。

しかし、そのような中でも、車中避難を続ける人が多かったのも事実。そこにはどのような実情があったのか。危機管理教育研究所代表、国崎信江先生にお話を伺いました。

国崎 信江先生プロフィール
防災関連専門委員会所属。危機管理アドバイザーとして、全国で講演を行う傍らNHKなどのメディアに多数出演し、広く防災情報を提供している。

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多くの人々が「車中泊避難」を続けた、その理由とは?

—熊本地震では過去の地震災害にくらべ、車中泊で避難生活を続けた方が多かったと聞きます。なぜだったのでしょうか?

国崎先生 まずは、指定避難所の多くが地震により損傷し、使用不能になってしまったことです。たとえば益城町の総合体育館では、メインアリーナが天井崩落するなど、非構造部材の被害により使えなくなり、廊下やエントランスにまで人があふれていました。避難所まで車で来たけれど、避難所内に居場所がなく、そのまま車中泊を余儀なくされた方も多かったようですね。

さらに特徴的だったのが、最大震度7の大きな揺れが同一地域で2度も観測されたという点です。余震に対する警戒を呼びかけられていたこともあり、次第に収まっていくと思うのが一般的な思考ですよね。14日の大きな揺れでひとまず避難したものの、15日夜には自宅へ戻った、という方もいらっしゃいました。そして16日未明、再度大きな揺れが襲ったのです。この地震により被害が拡大し建物そのものへの信頼性がなくなってしまったんですね。指定された避難所すら被害を受けているという状況下で、避難所側がいくら「受け入れできますよ」と声掛けしたとしても、もはやその不安はぬぐえず。その心理的な不安から車の中で過ごすことを選んだという印象です。

—「車中泊は危険だ」という声も多く聞かれました。具体的にはどのような危険があったのでしょうか?

国崎先生 やはり健康面での危険は伴います。代表的なものでいえば「エコノミークラス症候群」ですね。狭い車内で同じ体制をとり続けていれば、どうしても血流が悪くなってしまいます。が、これは車内に限らず、避難所の限られたスペースで一日中動かない方にも起こりうるものです。

車中で過ごすあとは「一酸化炭素中毒」。自動車の排気口が草むらや植え込みに近づきすぎていると、排気ガスが知らぬ間に車内に充満してしまうことがあります。駐車する場所には注意が必要です。

それと、時期によっては「熱中症」の危険も。車内は狭く、人が居る状態で窓を閉めきっていれば、たとえ真夏でなくともすぐに車内温度は上がってしまいます。とくに夜間は、防犯上施錠をしておきたいところですが、エアコンを使えば当然ガソリンは減りますし、エンジン音で周囲に迷惑がかかるだろうと考え、使いにくい場面も多いものです。暑さに耐え兼ね、致し方なく避難所に身を寄せる、という方も多かったようです。

—その危険をおかしてでも車中泊を続けられた方が多かった、ということですよね?

国崎先生 その分メリットがあったからでしょう。まずはセキュリティ面。避難中は長期自宅を留守にするわけですから、なるべく貴重品は持ち出したい。ですが、それを避難所に置いておくことは難しいですよね。その点、車の中に置いてしっかり施錠しておけば安心です。その貴重品を管理するためにも、なるべく車に留まるという選択になるわけです。

それにガソリンさえ確保できれば、エアコンが効いた車内はやはり快適ですよね。好きな時間にラジオが聞けたり、イヤホンなしで音楽を聞けたり。プライベートな空間を確保できるのは大きなメリットでしょう。テレビがついている車も多いですしね。シガーソケットから携帯端末の充電もできます。車中避難をされている方でも、食料や救援物資を受けとることはできていましたし、トイレも利用できるので、避難所の中で個室利用をしているようなもの。

お子様と奥様だけは避難所にいて、ご主人だけ車中泊というご家族もいらっしゃいました。ご主人は仕事帰りが遅くなることがあって、でもあまり遅い時間に避難所を出入りするのは周りの方のご迷惑になるという気遣いからです。日中は避難所にいる子供たちも、夜になって、どうしても見たいテレビの時間だけ車にいく、という過ごし方ができたりします。

自由に移動できるということも大きいですね。必要な生活用品を買いにいったり、周辺の温浴施設を利用したりした後に、拠点に帰ってくるという動きができるわけです。

ペットと同行避難

ペットがいるために車中泊を選んだ方もいます。環境省のガイドラインでは、ペットは同行避難することを推奨しています。ただ、その対応は避難所によってまちまち。たとえば、発災直後は避難所の中への受け入れを許されていたのに、混乱がおさまってくると今度は生活環境に目が向けられて。衛生面を改善するために土足を厳禁にしようという動きになり、じゃあペットはどうするのか?外に出すべきではないか?という声が上がってくるわけです。初めは避難所にいたけど、ペットのために途中から車中泊に切り替えた、という方もいらっしゃいました。

「車中泊避難」課題と対策のポイントは?

—メリットも多そうな「車中泊」ですが、やはりエコノミークラス症候群については不安があります。どのように気を付けておけばよいでしょう?

国崎先生 前触れがない、と言われていますが、全くないというわけでもないですよ。足がすごく重ダルくなって、パンパンにむくんで、血管がビシビシっと痛むような感覚です。若い方のほうがその前兆に気が付きやすく、ご高齢になればなるほど気づきにくくなる、という傾向はありますね。やはり前触れが起こってからではなく、予防に努める必要があります。

改めて説明すると、エコノミークラス症候群とは、長い時間同じ姿勢をとっていることで血流が悪くなり、血栓(血の塊)ができてしまうという症状のことをいいます。特に膝を 曲げた状態で長時間過ごしてしまうと、膝の裏の血流をせき止めてしまうことになりますよね。それを伸ばしてあげることが重要なんです。眠る場所はなるべくフラットにすること。足元に荷物を置いくなど、工夫の仕方はいろいろあります。そして日中はなるべく車外に出て体を動かすこと。屈伸をしたり、膝裏をマッサージするのも効果的ですね。

あとは水分摂取です。水分が不足すると血がドロドロになり、より血栓ができやすくなります。高齢の方ほどトイレの利用回数を減らそうと水分摂取を控えてしまうという傾向がありますが、これは大変危険。本人はもちろん、周囲の方も気をつけて声掛けをしてあげてほしいですね。

—車中泊避難をされていた方ですが、みなさん避難所の駐車場に停めていたのでしょうか。

国崎先生 多くの方がそうされていたようです。避難所を拠点にすることで、救援物資や各種情報を受けとりやすいですから。ただ、駐車スペースには限りがあります。大型の商業施設の駐車場を利用される方も多かったようですね。自宅前の路上や空き地のすみなどにひっそりと停めている方もいました。

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「グランメッセ熊本」被災時の駐車場の様子。一見して駐車車両なのか車中泊車両なのかはわからない。

実はこれこそが課題でした。車中泊避難をされている方の実態把握、そして安否の確認がとにかく難しかったんです。避難所内の駐車場を拠点としていたとしても、移動による出入りもあります。そのたびに駐車位置が変わったりしますしね。それに駐車している車の中に人がいるかいないか、一見してわかりませんし、気軽にドアをたたくのもはばかられます。

行政側は当初、車中泊の早期解消を目指して避難所の整備を進めていたようですが、先に述べたような理由によって、自らの意思で避難所を出て車中泊を選んだ方も多かったわけです。それをやめさせようというのはナンセンスでしょう。むしろ、駐車スペースを積極的に確保し、オートキャンプ場のような環境を整えることができれば、実態の把握がしやすくなり、もう少し支援が行き届いたかもしれません。

—車中避難をされていた方は、日中はどのように過ごされていたのでしょうか?

国崎先生 お仕事を持っている方は、日中は基本的に職場ですよね。そうではない方の多くは、ほぼ車内で過ごされていたようです。日中は外に出て体を動かしましょう、といくら声掛けをしても、居場所がないという問題もありました。車で仕切られているので、コミュニケーションも取りづらいんです。

そこで私は、現地で活動をしていた自衛隊にお願いをして、テントをひとつ立ててもらいました。すると、そこで体操やヨガをしましょう!というボランティア団体が出てきます。どんどんいろいろなイベントが企画される中、別のボランティア団体から、新しいテントを設営してよいか、という申し出があり、図書スペースができたり、キッズスペースができたり。一つの場をきっかけとして、さまざまな支援が展開され、日中の居場所ができ、避難者同士の交流も生まれました

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「グランメッセ熊本」にて、自衛隊設営のテント内でヨガを行う様子

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「グランメッセ熊本」ボランティアが設営した談話スペース左|キッズスペース(右)

車中泊避難は危険なことばかりではありません。注意すべきポイントを押さえ、日頃から備えをしておくことができるなら、メリットも多くあります。もちろん、都市部の場合、そもそも車での避難自体が難しいでしょうが、例えば平置きの駐車場があるマンションにて、大地震によってエレベーターが止まってしまった場合、生活困難となった高層階にお住まいの方がいっとき車中で被災生活をする、という選択ができるかもしれません。

—車中避難をするためには、どのような備えをしておくとよいでしょう?

国崎先生 まず優先すべきは「自宅の備え」です。家具や家電を固定し、ガラスに飛散防止シートを貼るなどで室内の安全対策をし、水や食料、トイレ、生活必需品のなどの備蓄を進めておくこと。その上で車については、「防災のため」と堅苦しく考えるのではなく、アウトドアの延長のような気持ちで楽しく取り組めるとよいですね。

近頃は車中泊を楽しみながら旅行を楽しむスタイルが注目を集めています。大型のキャンピングカーではなく、一般的なワンボックスカーなどで車中泊旅をするんです。ファミリー層だけではなくシニア層にも人気で、専門誌もあるほど。車中泊だけではなく、アウトドアのさまざまなアクティビティは、結果的に災害時役立つ知識や方法になることが多いです。遊びの中で楽しみながら、いつのまにか防災力が磨かれるわけです。

—例外的ではありますが、車移動中におこりうるトラブル(集中豪雨、豪雪、大事故、ガス欠や故障などによる立ち往生など)に備えて、車にあったほうがよいものはありますか?

国崎先生 災害用の簡易トイレは必須です。あとは通信機器の電源確保は重要ですよね。シガーソケットから取るものの他に、ソーラーチャージャー系の充電グッズなど、車の燃料に影響しない方法もあると安心でしょう。それから折り畳み式のポリタンクがあると便利。近頃は道の駅などの施設も増え、水場は多くあります。その水を持ち運ぶ手段を車にも備えておくとよいでしょう。

まとめ

今回は熊本地震の事例をもとにお話しをいただきました。もちろん、お住まいの地域特性などによって、車中泊避難に好適なところ、難しいところがあると思います。ですが「楽しみながら防災力をみがく」という考え方は、車中泊に限らず生かせそうです。また、平置きの駐車場があるマンションでは、マンション内での車中泊避難についても、方針やルールを事前に定めておくことで、より柔軟な対応が可能になるかもしれません。

下記サイトでは、マンション敷地内や駐車場で車中泊避難を検討するときの注意点と必要装備について紹介しています。あわせてご覧ください。

▼マンション・ラボ「マンションでの車中泊避難の注意点と必要装備
http://www.mlab.ne.jp/columns/columns_20161220/

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